資料名色紙3 (『羊歯地獄』掲載)
著者名三橋鷹女
出版者
作成年 1953

書き下し文

鴨翔たば われ白髪の 媼とならむ

解題

 第4句集『羊歯地獄』(俳句評論社 1961(昭和36)年6月15日刊)所収。1953(昭和28)年の作。初出は『薔薇』1953(昭和28)年11月号で、「十章」と題する10句中の最後に置かれている。角川書店の『俳句』1953(昭和28)年12月号の「昭和二十八年諸家自選句」にも掲載されている。

 鷹女が俳句を作り始めたのは、大正末期の20代のころである。その初期のころから鋭敏な感性と斬新な想像力を発揮した句を作った。第1句集の『向日葵』(1940(昭和15)年)2句目には、大正末期の句として、

 蝶とべり飛べよとおもふ掌の菫

という句がある。平凡な写生句ではなく、すでに後年の奔放な想像力の片鱗が見られる。

 鷹女の想像力の顕著な特徴として、他のものに変身するという変身幻想がある。

 この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉

この句は第2句集『魚の鰭』(1941(昭和16)年)に収められた1936(昭和11)年の作。秋の夕陽を浴びてこの世のものとは思われないほど美しく照り輝く照葉紅葉。それを眺めていると、この樹に登ったならば、必ずや鬼女になってしまうに違いない、という確信的な幻想にとりつかれてしまうのである。第3句集『白骨』(1952(昭和27)年)以後では、その変身幻想が「老い」や「孤独」や「死」をモチーフとしてしばしばあらわれる。

 この「鴨翔たば」の句も、その一つ。いっせいに鴨が飛び翔ったならば、その羽音のすさまじさによって、たちまち「われ」は白髪の媼となってしまうにちがいない、という幻想である。ここには、わが身の老いを強く意識し、それと向き合い、懸命に闘い、堪(こら)えている鷹女の姿がある。鷹女はこのとき50代の後半にさしかかっていた。

 他に、変身幻想の句として、

 百日紅何年後は老婆たち 『白骨』

 老いながら椿となつて踊りけり 『白骨』

 老婆切株となる枯原にて 『羊歯地獄』

 末は樹になりたい老人樹を抱き 『橅』以後

などがある。

(川名大)

NSIN(書誌ID)DL20151000210
種別自筆の書
細目1枚物
ページ数
大きさ(縦×横)27.0cm×24.0cm
資料群名三橋鷹女資料
目録番号36
撮影年月日2014/01/17
掲載枚数 1 枚
備考シミあり・傷みあり(虫損か)
所蔵個人所蔵
分類911.368
件名三橋鷹女
件名(成田)成田市-三橋鷹女
キーワード(成田)
地域コード9N
郷土分類913.68