資料名短冊3 (『羊歯地獄』掲載)
著者名三橋鷹女
出版者
作成年 1953

書き下し文

栁散る 鼓膜に皺を 刻みつつ

解題

 第4句集『羊歯地獄』(1961(昭和36)年)所収。1953(昭和28)年の作。初出は『薔薇』1953(昭和28)年12月号で、「七章」と題する7句中の冒頭。下5の表記は「刻みつつ」となっており、句集でも同じ表記である。

 このころ、50代の後半にさしかかっていた三橋鷹女は、自身の老いや死を強く意識した句を多く作るようになった。この句の1ヶ月前には、『薔薇』1953(昭和28)年11月号に、

 鴨翔たばわれ白髪の媼とならむ

という句を発表している。いっせいに飛び翔つ鴨のすさまじい羽音によって、一瞬にして急激に老いてしまうという老いや変身への恐れを詠んだ句である。また、前年には、

 鷹老いぬ夜明は常に頭上より

という鷹に自身を重ねて老いを詠んだ句も見られる。

 春の青々した柳の葉も、晩秋から初冬にかけて散り、わびしい風情を呈する。それは季節がめぐり、1年が過ぎたことを物語る。この句は、その1年の経過によって確実に老いが進行した意識を、「鼓膜に皺を刻み」と卓抜な想像力で捉えたものである。老いの意識は、顔や掌の皺・視力や聴力の衰えなど、目に見えるものや自覚症状によって生じることが一般的である。それに対して、内耳の奥にある鼓膜の皺という目に見えないものによって老いの意識を詠んだところに、衰えることのない鷹女独特の鋭く豊かな想像力が発揮されている。

(川名大)

NSIN(書誌ID)DL20151000170
種別自筆の書
細目1枚物
ページ数
大きさ(縦×横)36.2cm×6cm
資料群名三橋鷹女資料
目録番号26
撮影年月日2014/01/17
掲載枚数 1 枚
備考表面にわずかな凹み傷
所蔵個人所蔵
分類 911.368
件名三橋鷹女
件名(成田)成田市-三橋鷹女
キーワード(成田)
地域コード9N
郷土分類 913.68